優曇華。
そう,「うどんげ」と呼んでいた。稀なもの,はかないもののように思っていた。実際はクサカゲロウの卵だと知ったのは中学生ぐらいのこと,暗がりをゆらゆらと透きとおった翅に明かりを反射させながら飛ぶ,きみどり色のカゲロウには,なんとも似つかわしい卵だ。不思議に思うものや不確かなものに「名前」をつける。名がかたちを与え,かたちが名を与える。名前というのは不思議なものだ。私たちにとって「名前」とは何なのだろう。生まれ落ちてきたわたしたちと,この世界とわたしたちを結ぶ縫い代を往復する糸。この世界では,まだ不確かな赤ん坊というものを,つなぎ止める役割を持っているような気がしてならない。その響きや意味が影響をあたえるのは,むしろ当たり前のことだろう。
今の名前が仮の名前であるのなら,こちら側にくる前の存在そのものをあらわす「名」も,また存在しているようにも思うのだ。
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